1周年の朝
全てがうまくいかない一日。
まき:(朝)また自分巻いちゃった。
まき:(出勤途中)両方の下駄の鼻緒が切れた。
まき:(レジ)お釣り全部間違えた。3人連続。
まき:(配達)品川に着いた。(また)
まき:(雨が降る)体がしなしな……
カウンターに突っ伏す。
まき:……私、本当に役に立ってるのかな。巻くこと以外、何もできないのに。
— 沈黙 —
ドアが開く。常連の田中さん。その後ろに列。雨の中、傘をさして並んでいる。
田中:1周年おめでとう。今日はまきちゃんの寿司食べに来た。
客B:私も。あの鉄火巻きが忘れられなくて。
客C:子どもがまきちゃんに会いたいって。
まきちゃんの目に涙が溜まる。巻き簀を手に取る。
パリッ
体の海苔が、今日一番の音を立てる。
まき:(涙を拭いて、笑顔で)——いらっしゃいませ。今日も、心を込めて巻きます。
ゾーンに入る。でも今日のゾーンは静かで、優しい。一本一本、丁寧に巻く。
— ナレーション —
まき:(モノローグ)お釣りは間違えるし、道にも迷う。雨の日はしなしなだし、寝ぼけたら自分を巻いちゃう。でも——
まき:巻けば、大丈夫。
カメラが引いていく。麻布十番の小さな店。緑の暖簾。雨が上がり、虹がかかる。
めい:(小声で)……生まれてきてくれて、ありがとう。
まき:え?何か言った?
めい:何も。はい次の注文。
— 最終話 おわり —